連ドラ「いちばん大切なひと」幼なじみの2人はなぜ結婚しなかったのか

今から22年前、1997年にTBS系列で放送された連続ドラマ「いちばん大切なひと」のDVD（全11話）を見た。元SMAPの香取慎吾、観月ありさのW主演、ともに20歳の人気絶頂時で、幼なじみの恋愛ドラマを現実にも幼なじみ的なふたりが演じるということで話題をよんだ。

「いちばん大切なひと」DVDより

平成も終わりが近づいてきた今頃、見る気になった理由がある。ネットで香取さんが幼なじみではなく、別の女性と結婚する結末について「よくわからない」と話していることを知ったこと。それは結婚できない男を演じた2016年、同じくTBS系列の連続ドラマ「家族ノカタチ」の頃で、同作について語るついでにぽろっと出てきた感想のようだった。

それで興味をひかれて見たところ、幼なじみのふたりが高校卒業後2年ぶりに再会して互いに意識しあうもすれ違い、２年周期で再会を繰りかえす“すれ違いドラマ”であった。脚本は常盤貴子主演「理想の結婚」、松嶋菜々子主演「SWEET SEASON」など多くの連ドラを手がけた青柳祐美子氏のオリジナル。キャッチコピーは「恋人より、いとしい存在」で、輪廻転生の思想をベースにした運命的な人間の結びつき、今風にいうとソウルメイトの関係を描いていると思う。

物語は短大を卒業して横浜の実家に戻ってきた結城美和（観月）が、２年ぶりに幼なじみの大沢紘平（香取）と再会することから始まる。高校時代に美和が紘平にキスしたことで気まずくなったふたり。音信不通だった美和に紘平がいう。「俺とお前は小学校からずっといっしょでさ。その…何ていうの…幼なじみだろ。勝手にやめるな」

「いちばん大切なひと」DVDより

初給料がでた美和は、紘平を食事に誘って高校時代から近況まで胸襟をひらいて話しあう。美和の両親は、母親が自分の仕事をやめて専業主婦になったことでバランスを崩し、夫婦の間で諍いが絶えなかった。家庭の悩みを抱えた美和にとって、昔から紘平は話をきいてくれる避難所的な存在。彼氏がいても「それとは違って紘平は特別だったの」と美和は話す。

「いちばん大切なひと」DVDより

このドラマでは家族関係も大切な要素になっている。問題があるのは美和の両親ばかりでなく、紘平の両親もそれとはすぐにはわからないが破綻寸前だ。美和の父親と紘平の母親は幼なじみで、その因縁が若いふたりにもなにかしらおよんでいる雰囲気が漂う。

美和は更年期障害で情緒不安定になっている母親に振りまわされていた。昔のように公園で苦悩を打ちあける美和に、紘平は「輪廻転生って信じるか？」と問いかけて話し続ける。「よく言うじゃないか、子どもは親を選べないって。でも本当は違うんだよ。また会いたい人を選んで人は生まれてくる。前に叶えられなかったことをするために。前に伝えられなかった気持ちを伝えるために」

「いちばん大切なひと」DVDより

ふたりの関係を暗示するものとして、紘平の部屋でジョン・レノンの「(Just Like) STARTING OVER」の歌詞について話しあうシーンがある。紘平が歌詞カードを読みあげる。「ふたりが生きてきた時間はとっても素敵で特別で　でもぼくたちはいつのまにか成長して　今もその気持ちは変わらないけど　だからお互いそれぞれ旅をしよう　またいつかいっしょになれるから　必ずいっしょになれるから」。これを聞いて美和が疑問を呈す。「気持ちが変わらないなら、どうして一緒にいられないの？」　この歌詞の解釈が、ドラマの結論をふくめた内容のとらえ方の鍵になるのだろう。

「いちばん大切なひと」DVDより

ドラマのオチをすでに明かしてしまっているが、紘平と美和が学生から社会人になる変化の時期に、家族や仲間との関係を築きながら、幾度ものすれ違いをへてお互いが大切な存在であることを確認していく過程が見どころだ。ふたりの地元は横浜市の京浜急行・戸部駅という設定。子どもの頃の思い出の神社で、深夜に服のまま飛びこんだプールで、終電で出かけた逗子海岸で、ふたりは語りあう。時空を超えて異次元にいるような佇まいに人生の不思議さを感じる。香取さんの繊細さとヴィヴィットな感性が感じられる演技が心に残った。

「いちばん大切なひと」DVDより