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アーティストをたずねて ほか

インタビュー02:日本画家・装丁画家・イラストレーター 佐久間友香さん 日本画とサブカルチャーを愛する新鋭の描く耽美な世界

現代美術家・陶芸家の村上仁美さんのご紹介で登場していただくのは、日本画家の佐久間友香さん。服部まゆみさんの「シメール」や長野まゆみさんの「その花の名を知らず」など小説の装画・扉絵も手がけ、海外の現代アートマガジンでも取りあげられる若手の新鋭。

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装画として採用された作品「逢瀬」

 

小さい頃からマンガが大好きで、高校生のときには既にイラストを描いていたという佐久間さん。そんな彼女のセンスが活かされた日本画は、伝統的でありながら今の時代を感じさせる絶妙なバランス感覚が魅力だ。

現在、東京・浅草橋にあるギャラリー、パラボリカ・ビスで個展「選ばれなかった季節」が開催中(~5月26日まで ※12日(日)までは金土日祝のみ、13日(月)以降は木〜月・祝日オープン)。新作とともに多数の下図が展示された本展についてうかがいながら、佐久間さんの創作の秘密やスタイルをさぐる。

 

<2人の人物のモチーフを描く理由>


―壁一面に貼られた下図、壮観です

元々公開するものでないので結構捨ててしまってもいるのですが、今回は展示できそうな下図をピックアップして加筆しています。日本画は昔から大下図と小下図をつくってそれをもとに制作していく手法で、下図って地図みたいなものなのですから、この段階できっちり描かないといい作品になりません。究極的にいうと日本画は超レベルの高い塗り絵でして、線を描くところが勝負になるんですね。だから実は私もそれほど色には興味がなかったりして…。

 

―鉛筆のドローイングが素晴らしくて、目の輝きとか質感に驚きました

画材のなかでも鉛筆が大好きですね。美大の予備校に2年通っていて、一次試験に鉛筆のデッサンがあるので日本画の受験生は色々テクニックを叩きこまれて身につきます。それが役に立っていますね。

 

―下図と本画では雰囲気が違っていて見比べるのが楽しいです。今回、服部まゆみさんの小説「シメール」の装画となった作品「逢瀬」と、本を読んでから描いた作品と2バージョンが展示されています

ギャラリーで「逢瀬」をみた装丁のデザイナーの方と編集者の方が、「シメール」のイメージにぴったりだからと気に入ってくださって。小説は双子の少年が主人公で、ひとりは死んでもうひとりは生き残ります。

私としては装画なら作品を読んで描くべきじゃないかと思って、「シメール」に漂う陽が下がってきた夏の四時くらいの雰囲気が出ればいいなと描き下ろしたのですけど。14歳の少年の無垢さには「逢瀬」がいいといわれて、ほかにも現実的な条件などから使われることになりました。個人的にも「逢瀬」はとても気に入っていて、服部先生の装画になってよかったです。

 

―「逢瀬」で描かれるような2人の人物というモチーフは佐久間さんの作品に多くみられますね?

 

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「Miniature Garden」


人生の岐路にたつとき、2つの選択肢のうち一方を選んで今を生きている自分と選ばなかった過去の自分とがいて、そんな自画像的なものを描いている感じですね。たとえば環境とか社会的なテーマを扱うことがアートの意義なのかもしれないけど、結局すごく個人的で内面的なテーマにしたほうが描いていて入りこめます。

作品の意味を説明しようとするとちっぽけなものになってしまうけど、誰しも個人的な痛みを抱えた経験があって、それがこの世の終わりのように思えることだってある。そんな普遍的なものを描ければいいかなと思っています。


―大学の修了展で描かれた絵が印象に残っています

 

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「絵を描く自分」「絵を描かない自分」の2人を一緒にゴンドラに乗せて、それを引っ張る女性が画家として生きる道に導いてくれるというイメージで描いています。蓮畑は一蓮托生的な、順調な自分と下がり調子な自分、どちらも背負ってやっていくという意味あいがこめられていますね。4~5か月くらい集中して制作しました。今となってはこれくらいの大きなサイズを描くのはスケジュール的にも大変ですね。


<自分を救ってくれた2人の人物>

 

―これだけ大きなものを描かれていると、小さくなる分には困らないようにも思えますが、サイズに関わらず構図を考えるのは大変ですか?

そうですね、構図と取材はやはり時間がかかりますね。構図は人物から考える場合もあれば、使う花から人物を決める場合もありますね。花を生かすためのポーズや顔の向きや表情、目の色といったものを考えて、モデルさんをお願いしてポーズをとってもらって描きます。私の場合、半分くらいはモチーフありきです。花ひとつとっても何でもいいわけではないですし、描きたいものがそこかしこにあふれているというわけではないので、これは絵になるなというのは貴重な機会です。

アンティークショップに行ったときは、今ではないけどいつかこれを描きたくなるからとりあえず買おうという感じですね。だから家には標本とかきれいな瓶とかいっぱいあるガラクタスペースがあるんですけど(笑)そこから何かを選んで人物を考えるということもやったりしています。

 

―花とかモノの選び方もやはり日本画の伝統に則っているように感じます。少女が頭上で曲げた腕に雀が3匹乗っていて、片方では孔雀の羽をもっている組みあわせの絵なんて面白いなと思いました

それは花鳥風月がテーマの4連作の1枚で、見たときに違和感を生む組み合わせがいいと思って雀と孔雀という対照的な鳥を選びました。鑑賞者は違和感によって、作品について考察するきっかけになると思うし、モチーフから様々なことを連想してそれぞれの解釈が生まれる。展覧会でテーマを与えられて描くことも多いので、自分の引き出しが増えるのがいいですね。パラボリカ・ビスだと、たとえば「狐」というお題に文学を掛けて人を描くことが求められるので、さらに鍛えられるという(笑)

 

―速水御舟さんがお好きだとか

御舟はナイフのような鋭さをもっている葉っぱの捉え方とか、とにかく線がきれいです。どこをとっても緊張感がある隙のなさに魅力を感じますね。絵から気高さが伝わってくる。山種美術館にある重要文化財の「名樹散椿」は本当に感動しました。

日本画をやっていくことに迷いがあった大学1、2年の頃に、御舟の作品をみてありのままのものをひたむきに写すというのは決してくだらないことではなく、いい作品を生み出すひとつの方法だとわかって救われた気がして、そういうこともあって好きですね。今でも元気になりたいときに、御舟の絵を見にいきます。

 

―自分の心をみつめたいときに会いたい作家なんですね

そうですね。絵画じゃなくてイラストをやっていったほうがいいのかとか、描くだけならイラストの仕事をいただければそれで十分じゃないかと思っていた時期もあって、でも御舟の絵をみて「いやいや、絵を描かないとダメだ」と我にかえるみたいな感じで。

 

―ほかに、影響を受けた方というのはいらっしゃいますか

平成耽美主義の画家といわれている山本タカトさんです。トップクラスのイラストレーターで、画家としても評価が高くて海外のアート市場でも人気がある方です。なかなかこういう方って、いないんです。自分の画集を出したときに帯の文章を書いていただくのがひとつの夢ですね。

イラストと日本画のどちらかに絞らないといけないと思いこんで悩んでいた大学時代に、タカトさんの活動スタイルを知って御舟のときと同じように救われた気がして。ジャンル云々ではなくて、大事なのは自分の絵を突きつめていくことじゃないかってふっきれました。初めてタカトさんの絵をみたのは高校生のときです。人物画って顔も体も自分でいかにデフォルメできるかがすごく重要で、タカトさんの絵はどこをとってもデフォルメの完成度が非常に高くて憧れますね。

 

―佐久間さんの絵は髪の描き方がひとつ特徴的です

 

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「漆黒の空」


やはり線に興味があってとにかく細かく描くのが好きなので、髪を線で見せたいという思いがあります。今のスタイルは、高校生から趣味で描いていたイラストに近くて。タカトさんのスタイルを知って、イラストでやっていることを日本画でもできるかもと思ってデフォルメの工夫を始めました。

私は(日本画の公募展の)院展に出したくて高校の美術科に進んで、大学も東京藝大と地元の愛知県立芸大を受験したので、大学3年くらいまでは院展に入選するための絵を描いていて…本当に最初は頭が固かったんですよ(笑)


<海外からオファー多数 画家として生きる覚悟をもって進む>


―90年生まれで、マンガ・アニメ文化のなかで育っていますが

平成初期生まれは漫画・アニメカルチャーは避けて通れないのではないでしょうか。マンガでは「週刊少年ジャンプ」が大好きでほとんどの連載を読んでいましたね。根性系がお気にいりで、だから考え方もちょっと体育会系かもしれません(笑)マンガに限らず、自分が知らない世界を知るのが楽しいというタイプで。

少女マンガでは唯一、「花とゆめ」の連載で由貴香織里先生の「天使禁猟区」に小学5年生ですごくハマりました。厨二病爆発の堕天使系ダークファンタジーで、耽美な天使がたくさん出てきて、耽美好きはこれがきっかけかもしれません。中学生になって(ロックバンドの)L’Arc 〜en 〜Cielの大ファンになって、今でもコンサートがあればどこへでもいきます(笑)私の人物画の美にラルクの耽美的な世界観が大きく影響しているのは間違いないですね。

 

―佐久間さんの絵が若い女性にも人気というのも納得ですね

厨二病や耽美な世界観というのは技術力がないときちんと成立しないので、自分の強みを生かせます。それに耽美派は流行りすたりがなくて、いつの時代にも一定層のファンを獲得しているということも大きいですね。

 

―海外のグループ展に参加されていますが、反応はいかがですか

台湾が一番多いのですが、前向きでハッピーな絵が好まれますね。部屋に飾って明るくなるようなものが欲しいのだと感じています。国柄として赤は縁起がいいとされるので、赤色を使った絵を欲しがりますし。国によってウケやすいものは違いますけど、何より作家として息長くやっていくためにも自分のスタイルを大切にしていきたいと思っています。アートもイラストもファッションもすべての消費サイクルが早いので、目先のことにとらわれないようにしたいです。

 

―オーストラリアの現代アートマガジンで数ページにわたって取り上げられています

日本の若手作家を紹介していて、私もインタビューを受けました。いま海外からはインスタグラムを通じて仕事の依頼がくることが多くて。フォロワーの国別の内訳をみると1位がアメリカ、2位台湾、3位がタイ、フランス、日本は6位くらいという…(笑)

日本の厨二文化が好きな人は海外にも一定数いるから、そこに響いているのかなと思っていますけど。海外のパンクやゴシック系の作品は、徹底的に血なまぐさかったりしますけど、日本はもっとマイルドですから。「いいね!」の数の多さと売れる絵とは違うのが面白いですね。台湾では日本人の方がやっているギャラリーで扱ってもらっていて、その方曰く「佐久間さんの人物画は、デフォルメが台湾人にハマっている感じがする」と。

 

―デフォルメの際に注意されている点は

目鼻口の配置サイズには気を使いますね。パーツの配置が1ミリ違うだけで、まつげの本数が少し違うだけで印象がまったく違います。私はものを見る目には自信があってそれに技術力がおいつかない場面もあるのですが、一般的な美醜はまったく気にしないで自分がグっとくる、いいと思うバランスになるまで調整し続けます。

モデルさんにはポーズをとってもらうだけで、過去にとても気に入った女性1人をのぞいて、顔は自分で描いています。人の顔をスケッチするとどうしても生々しくなってしまうので。

 

―表情が読みとれなくて、天上感があって、魂のひとみたいな感じがあります

魂の容れ物を描いているようなところがありますね。何を考えているのかわからないような顔にすることを心掛けています。

 

―これまでずっと少女を描いてこられましたが、本展では珍しい男性を描いた作品「エレファントマン」を出展されています。爛れて腐乱した美が印象的です

服部まゆみ先生の小説「一八八八切り裂きジャック」からヒントをもらって描いています。もともと男性の顔をみるのが好きで、異性ということもあって女性より造形的な面に集中できるんですよね。

実はFreak的なものをずっと描きたいという気持ちがあって。これまでも異界を感じさせる角がはえた少女を描いたりしていますけど、重いテーマだから造形的な興味だけで手を出していいのかということは常に考えていて。モラル意識も働きますし、ちゃんとした背景がないと描いてはいけないモチーフだというのがずっとあって、怖くて手が出せなかったんです。

見世物小屋の文化があって奇形は人の好奇心をあおるものだからとっつきやすい要素ですけど、だからこそちゃんと裏づけをとらないといけなくて。今回物語の形を借りましたけど、これからそういう経験を重ねながらいつかオリジナルのものを描けるようになりたいですね。

 

―今後がますます楽しみです。最後に抱負をお願いします

これまで画家としてやってこられたのは、御舟やタカトさんに救済してもらったからだと思っているので、自分も後進にたいしてそういう存在になれるよう頑張っていきたいですね。

 
佐久間友香(さくまゆうか)プロフィール

 

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1990年愛知県名古屋市生まれ。愛知県立芸術大学美術学部日本画専攻 卒業 同大学院博士前期課程日本画領域 修了。名古屋を拠点に活動しながら、東京でもパラボリカ・ビスやみうらじろうギャラリーなどで個展を開催する人気作家である。