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アーティストをたずねて ほか

友人らが語るブレイク前夜の素顔 映画「バスキア、10代最後のとき」

27歳で薬物中毒の末、この世をさった現代アートの寵児ジャン=ミシェル・バスキア。彼がいかにして20世紀を代表するアーティストになったのか、若き日の素顔に迫ったドキュメンタリー映画「バスキア、10代最後のとき」(YEBISU GARDEN CINEMAで公開中)見てきた。

 

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70年代後半から80年代のニューヨークで同時代を生きた友人知人、有名人らが、バスキアとの思い出や当時のカルチャー・シーンについて語っている。映画の冒頭、財政破綻で荒れはてたニューヨークで、全車両にグラフィティを施された列車が走るシーンからそのど迫力に惹きこまれる。

 

地下鉄や壁に絵や文字をスプレーなどで描くグラフィティ。列車100本以上に描いた伝説的なグラフィティ・ライターで、ヒップホップ映画「ワイルド・スタイル」では主役を演じたリー・キュノスが「グラフィティは荒廃を生むが、クリエイティビティを生む」というように、それはストリート発のインパクトのある新しい表現だった。破綻した街には貧乏な若者や黒人が住みつき、パンク、ヒップホップカルチャーが色濃く出ていた時代だ。

 

本作を通じて実感するのは、バスキアはあの頃のニューヨークという都市が生みだしたアーティストなのだということ。ハイチ人、プエルトルコ人の両親をもつバスキアは、ブルックリン出身である。両親の離婚後、家にも学校にもなじめず、マンハッタンの路上生活をへて友人宅を転々としながら、「有名になる」ことを目指していた。

 

16歳のときにグラフィティ・ユニット”SAMO”(いつも同じ)で、壁に貧富の差など哲学的な詩を描いて注目を集めたのを皮切りに、さまざまなチャレンジをしていく。既製服にペイントした「MAN MADE」というブランドをつくって、かなり高価な価格設定をしていたりする。有名クラブに出入りし、ヴィンセント・ギャロも在籍した「GRAY」という名のノイズ・ロックバンドではクラリネットシンセサイザーを担当して、フリージャズ的な音楽をやっていた。

 

同居していたガールフレンドの部屋では、壁やドアや冷蔵庫を使って実験的なアート制作に没頭。この女性が保管していた作品群が本作のひとつの見どころになっていて、絵については鮮烈でクールでジャズ的なものを感じさせる。まさにアーティストの青春時代という感じで、制作過程を見られた彼女がうらやましくもある。バスキアは女性にかなりモテた。なかなかの色男ぶりを、映画監督のジム・ジャームッシュはじめ友人たちが懐かしそうに暴露しているのがちょっとおもしろい。

 

やがて、性能があがったコピー機を使ってコラージュ制作を始めたバスキアは、自作のポストカードをポップ・アートの帝王 アンディ・ウォーホルに渡すことに成功。これが転換点となり、グループ展「タイム・スクエア・ショウ」(80年)や「ニューヨーク/ニューウェーブ」展(81年)で注目され、作品1点が数万ドルで取引される黒人初のスター画家として駆け上っていくというところで話は終わっている。

 

ブラックピカソともいわれ、バスキアの落書きにも見える独自の作風は文字やシンボル、絵の構図が洗練され、クールさと激しいパワーが魅力だ。彼が壁に書いていた詩も文字や配列に美しさがある。正規の美術教育をほとんど受けていないが、幼い頃から絵を描き、美術館に通うなどアートに親しみ、詩作も得意と早くからアーティストとしての片りんを見せていた。

 

80年代は新勢力のギャラリーによってアーティストが大量に生まれていた時代で、バスキアも出るべくして出てきたのだろう。同世代には、同じくグラフィティ出身のキース・へリング、日本では日比野克彦がいる。

 

昔、雑誌で日比野さんがバスキアとの思い出を綴っているのを読んだ。自分の絵を見せたらバスキアが抱きついてきたそうで、傍から見ていてもなんだか気があいそうな2人である。バスキアピカソと違って線を描くこと、色を描くこと、ただそれだけが目的で、だから一部分を拡大しても一本の線だけでも彼の絵なのだ、偏見のあるニューヨークの美術界で、彼は思いを線にこめて自分のDNAの絵を描いたのだ、というようなことをおっしゃっていた。

 

ZOZOTOWN前澤友作氏が約123億円で落札して話題になった《Untitled》(1982年)は、バスキア初期のモチーフの骸骨で、彼が子どもの頃、入院中に読んだ「グレイの解剖学」の影響だといわれている。この作品を含めた約70点による、バスキアの日本初の大規模展覧会が今秋、六本木ヒルズ森美術館で予定されているという。今からとても楽しみだ。

 

最後にバスキアの生涯をよく知らない人は、本作の前に映画「バスキア」「バスキアのすべて」を見ておいたほうがわかりやすいかもしれない。